「歌わないの?」

シヅキの後を追って入ったカラオケで、シヅキがデンモクを差し出してくる。

「シヅキが来たかったんだからシヅキが歌えばいい」

「好きだった歌のことも覚えてないんだ」

「いつも鼻歌で歌ってるのは?」

「えー?鼻歌なんか歌ってた?」

「歌ってたよ。主に自転車に乗ってる時」

「覚えてないなー」

「散々歌ってたぞ」

「えー。春人が歌ってよ」

来たがったのはシヅキなのに、なぜか頑なに歌おうとしないシヅキに俺も意地になる。

「大体これはシヅキが成仏するためのものだろう。シヅキが歌わないと意味ないんじゃないか?」

「成仏……」