「青山さんには入社した頃お世話になっただけです。
この間は久しぶりに顔を合わせたので心配して声をかけてくれたんです」
「俺には菜乃花が嬉しそうに、喜んでるように見えたけど。
その青山さんも」
「久しぶりだったので嬉しかったです。
かなりお世話になりましたし。
でもそれだけです。他には何もないです」
あの時、見られてたんだ。
でもまさか、一回りちょっとも違う、それも上司相手にまで注意を向けていたなんて。
「そうか」
言いながら桧山さんが立ち上がる。
「桧山さん?」
「なんか気分じゃなくなった。今日は帰る」
「桧山さん!
私、本当に何もしてないですよ?」
「分かった。分かったけど、でも。今日は帰る」
『分かった』
彼は確かにそう発音しているはずなのに。
一度も目を合わせることもなく帰っていった。