「菜乃花さ」

不意にかなちゃんが私の名前を呼ぶ。

「やっぱさ、なんかあったんだろ?」

視線は課題に落としたまま、静かな声で聞かれた。

初めて訪ねてきた日と同じ声で、同じことを。

「大丈夫だって。

それに『菜乃花』じゃなくて『なのねえ』でしょ?」

嘘をついてるのを誤魔化すように明るい声で大人ぶる。

いつの間にかシャーペンの音が消えて。

雨の音だけが部屋に満ちていて。

その力強い瞳はいつの間にか私を捉えていて。