私が使っているこの靴箱は、本来なら吉岡さんに割り当てられたものだ。


二年生に進級して新しいクラスが発表されたとき、靴箱は出席番号順で割り当てられた。


私は三列目の真ん中の段だった。

吉岡さんは同じ列のいちばん下の段で、いちいちしゃがまないと靴の出し入れができない。


『ねえ、靴箱、交換してよ』


始業式の翌朝たまたま生徒玄関で吉岡さんに会ったとき突然そう言われて、私が彼女の靴箱を使うようになったのは、つい三日前のこと。

内気で自己主張の苦手な私には、吉岡さんのように活発で可愛くて目立つタイプの女の子から言われたことを断るなんて、できない。


私たちが靴箱を交換したことは、他の誰も知らない。

ふたについている出席番号はそのままだし、上履きも同じで外靴も二人ともローファーだから、中を見ても分からない。


つまり、このラブレターは、もちろん吉岡さんに宛てられたものだ。

そんなことは、靴箱のことだけじゃなくて、私と吉岡さんの外見を考えてもすぐに分かる。


誰が見ても美人で可愛い吉岡さんと、可愛くないし地味でいつも俯いている私。

『一目惚れ』されたのは吉岡さんに決まっている。


実際、便箋の初めには、『吉岡美里様』と書かれていた。


「手紙、それだけ?」


吉岡さんが訊ねてくる。

私は首を横に振り、続きを読みあげた。


「いきなり付き合ってくださいというのもおかしいと思うので、よかったら文通をしてくれませんか、って書いてあるよ」

「はっ? 文通? きもーい!」


吉岡さんは顔をしかめた。