「それで、両親に頼んだんだ。絵本読み終わったあとでそのページ開き直してさ。

ねえこれやってって。

両親は僕の両側に寝て、肘ついて空間を作ってくれたよ。


『じゃあこれは、立樹の穴だね』って言って」



「いいなあ、日比野くんはすごく愛されていたんだね」


彼女は、胸の前で両手を握り合わせ、目を輝かせながらそう言った。
 

その穴は、僕だけのもの。

守られている、と感じて、安心した。

抱きしめられるよりもずっと、本当に、幸せな時間だったと思う。



「もしかして、日比野くんがその絵本のこと覚えてたのは、その思い出があったからなのかもね」


 彼女は、少し涙目になっていた。


「森下さん、笑いすぎ」


「だって、子どもの頃の日比野くんを想像したら、かわいすぎたんだもん」


あと、と彼女は言って付け加えた。


「日比野くんの新しい一面が知れて、嬉しかったの」