美術館のあとに向かったのは、広大な日本庭園。

美術館を囲んでいた明るくにぎやかな雰囲気の庭とは対照的に、落ち着きがあり、どっしりとした趣のある庭だ。



梅雨の時期にたっぷりと水を吸った草木は、一年で最も活気づく夏を迎えていた。


陽光が降り注ぎ輝く万緑の中を、僕らはゆっくりと歩く。


庭園は、静かだ。

美しい植物たちは息をひそめて、自分の置かれた場でその命を全うしようとしていた。


地面は、丁寧に管理された苔でびっしりと埋め尽くされている。

そんな苔さえも綺麗な深い緑色をしていて、日陰の中でも風景を明るく染めていた。


美しい景観を全身で味わいながら、僕らは細かな砂利や石畳を踏みしめながら歩く。


これは、ヒメオオギスイセン。

これはギボウシ。

これは、リュウノヒゲ。


彼女は、緑の中ところどころに美しく生えている花の名前を僕に尋ねた。

そのたびに、僕は植物の名を説明する。

何度も来ているうちに、自然に覚えたのだ。




そうなんだ、綺麗だね。


そんな会話をするとき以外は、お互いほとんどしゃべらなかった。


それでも、やはり森下さんの隣は居心地がよかった。