僕は、その窓枠の中が決して同じにはならないというところが好きだった。


どの一瞬を切り取っても、それは二度と目にすることのできないひとつの絵だ。

だからこそ、美しい瞬間を見逃すまいと、首が痛くなるほどじっと上を眺めていた。

――みて、あのくも。ワンちゃんのかたち!

――いま、ぜんぶあおだった!

――あめもきれいなんだね。
 
小学校へ上がる前の僕は、そこから見える景色にいちいち感動しては、両親に伝えていた。


そんなことを森下さんに話すと、

彼女もこの作品が気に入ってくれたようだった。


「この作品には、日比野くんの思い出が詰まってるんだね。

そういうものがあるって、素敵なことだと思うな」


それに、と言って彼女は天井を見上げ、続けた。


「私ね、空が好きなんだ。見上げればいつも、そこにある。

そして、一瞬たりとも同じ空の景色は見られない。


だから、私は暇さえあれば空を見上げてた」