そして、彼女は以前と同じことを口にする。

「早く、記憶が戻るといいね」


「うん、ありがとう。それにしても、君の物語は読んでいるとどんどん引き込まれる。

描いていて飽きることがないよ」


 僕はまた、話題を物語に戻す。


「それならよかった。飽きちゃったらどうしようって、心配してたから」


「そんなことは絶対ないよ。相変わらず、男の子に自分の姿を重ねて読んでる」


僕には、今の自分に必要なものを、物語が教えてくれている気がしていた。それを森下さんに伝えたかった。


「なにか、日比野くんに変化はあった?」


「うん。イルカのところを読んで、

『自分は誰のためになにをがんばればいいんだろう?』って考えてみたんだ」


 彼女は一瞬、目を大きくして驚いていたけど、すぐに「ふふっ」と嬉しそうに笑った。

そして興味深そうに聞いてくる。