白鳥の顔は、まっすぐに前を向いてとぶ姿は、とてもほこらしげでした。

「彼には、イルカと同じで誰かのためにがんばることができたんだね」


「それだけでないわ。白鳥のしたことの意味を、考えてみて」


 女の子は、あらためて男の子に笑いかけました。


「あなたにも、白鳥と同じ力があるのよ。

あなたははじめ、まだ羽をもっていなかった。

でも、その羽をつかわずにわたしを助ける方法を見つけてくれたの」


男の子はそれを聞いても、自分が女の子を助けたことを思い出すことできません。

でも、女の子が言っていることをうそだとは思っていませんでした。


「……ごめん、まだ思い出せないよ」

「ムリもないわ。大丈夫、今のあなたにとって大切なことはそれを思い出すことではなくて、いま目の前にある壁をのりこえることだもの」


 時間が早く進んでいるのでしょうか。もう、目の前には太陽が昇ってきていました。


朝の光が、雲をてらしています。女の子の顔も、白鳥も朝やけに照らされ、美しくかがいています。


「いい? ただがんばるんじゃなくて、今、あなたにできること、あなたがすべきことを考えてみて。

あなたにはその力があるんだから。あなたならできるはずよ」



女の子はそう言うと、雲の中に姿を消しました。つづいて、白鳥も。


「……まってっ!」


あとを追い、男の子も下におりて雲にとびこみました。雲に包まれている間、海の中で泡に包まれたとき同じかんかくがあって、

これがこの夢のおわりだと男の子はわかりました。



女の子の姿は、もうありません。


そのかわりに、目を覚ます前にあるものが見えました。



それは、ゆうだいなシベリアの大地と、ゆうゆうと空をとぶ白鳥のむれでした。