「五年かかったんだもんね……」


「でも、彼がしたのは練習だけではないわ。夜空を見上げてひとりじゃないって思えたことで、みんなのためにできることをさがしたの。

自分の、可能性を」


「自分の、可能性……」


「彼はみずうみを泳ぎ回り、人間にしかけられたワナを見つけては、それをはずしていった。

空を飛べないかわりに、彼は泳ぐのがとくいになっていたから。

仲間のことを考えつづけ、いつ仲間がやってきてもいいように、そのばしょを守っていたの」


「彼の仲間はそこに来たの?」

 男の子は、心配に思っていたひとつのことをたずねました。


「ちゃんと来たわ。そして、彼のおかげで安全に冬をこすことができた。

彼に『ありがとう』って何度もお礼をいったわ」



その白鳥は、嬉しかっただろうね。

男の子はそう言って隣をとぶ白鳥を見て目をほそめました。


「そうね。冬の間、彼はすごく幸せだった。

仲間や家族といっしょにいれることもそうだけど、空をとべなくてもみんなの役に立つことができたこともすごく嬉しかったの。

だから、今までに四回、冬をこしたあとに仲間と別れることになったけど、彼は
つらくなかったのよ」