「あなたは、わたしのためにがんばろうとしてくれた。

でもね、ただがんばったんじゃないの。

あなたは今日、あの先生のためにと思ってガムシャラにがんばったわね。

それは素晴らしいことだわ。

でも、それだけではいけないのよ。あなたの本当の力をぜんぶ出していない」


「じゃあ、どうすればいいの?」
 
女の子はまた、指をさしました。


すると、雲の中からなにかが顔を出し、白く美しい姿を見せました。


「鳥?」

「そう、白鳥よ。

彼はいま、遠くにいる仲間のもとに行くために、一羽でとんでいるわ。

でも、最近まで、彼は空をとぶことができなかったの。

さ、行くわよ」
 
女の子は、白鳥をおいかけるようにとびました。

男の子のからだもそれについていくようにとんでいきます。


「……どうしてとべなくなったの?」


「生まれてから数カ月。えさの取り方もおぼえてとべるようになった彼は、冬をこすために仲間とはじめてここにきたわ。


でも、そこで羽を猟師にうたれてしまったのよ」
 
男の子は、彼の右羽に傷あとがあるのを見つけました。

「自分の力でとべない彼を、仲間はおいていくことしかできなかった。

とべないその傷が治って、こうしてとべるようになるまで、五年かかったわ」


「五年間、彼はどうしていたの?」

「はじめのころ彼は、いつも家族やなかまのことを思って泣いていたわ。

一羽でいる のはすごく心ぼそかったし、さびしかった。

ひとりぼっちなら、生きていてもしかたないとも思った」


「そうだよね。ひとりぼっちはつらいよ。……小さいときならもっと」


「うん、そうね。

でもね、また夏がやってきたある日の夜。彼は、お母さんが彼に話してくれたことを思い出したの」