その日の夜。僕はベッドに寝そべりながら、公園での出来事を思い返していた。

森下さんの夢。それは、絵本作家になること。しかし、いくら練習しても、絵が上達しないことが悩みらしい。そして、彼女が言うには、僕の絵は彼女が書きたい絵本のイメージにぴったりなのだそうだ。

彼女のあんな積極的な姿は、初めて見た。教室では目立たないほうだし、一カ月以上隣の席に座っているが、そもそもあんなに会話をしたことがなかった。

僕は突然のお願いに驚きはしたが、絵を褒めてもらったことと自分を選んでくれたことが嬉しくて、『僕なんかの絵でよければ』と言って承諾しょうだくした。

右手のいいリハビリにもなるとも思ったことも大きい。それに、自分が必要とされる経験はめったにないことで、単純に嬉しかった。

彼女は、出来上がった絵本はコンクールにふたりで応募おうぼしたいとも言っていた。受賞すればもれなく出版されるものだ。そうすると、図書館や子どもに関係するさまざまな施設にも配られることになる。

子どもはもちろん、たくさんの人にも読んでもらいたい。

それが、彼女の願いだった。そんな気持ちを聞いて、僕もがんばりたいと思った。必要とされたからには、彼女の力になりたい。

そして早速、どんな物語なのかを彼女に聞いてみた。すると彼女は『ふふっ』と笑ってこう言った。

『話は、明日学校で渡すね。タイトルは、まだ秘密』

このときぼくらは、初めて『また明日』と言い合った。