僕は、ひとつ深呼吸をして弾む心を少し落ち着かせ、毎朝しているのと同じように味噌汁と目玉焼きを作り、お茶を入れた。

出来上がる頃にじいちゃんが起きてくるので、一緒に朝食を食べる。


「おはよう、立樹。

朝ご飯、ありがとう」


じいちゃんは目尻のしわをいっそう深くし、

ゆっくりと手を合わせた。


「いただきます」


じいちゃんはもう八十歳になるけど、まったくボケてない。


いつも僕の顔を見て、名前を呼んで、挨拶をする。


僕が用意するのはいつもと変わらない朝食だけど、まるで毎日違うものであるかのように喜び、


「ありがとう」と言い、美味しそうに食べる。


父さんと母さんが亡くなったとき、じいちゃんは、父親や母親の代わりになろうとはせず、

ただそれまでのじいちゃんのままでいてくれた。


記憶をなくした僕よりも、記憶のあるじいちゃんのほうが父さんと母さんの死はつらく悲しいはずだと想像したけれど、

じいちゃんが悲しんでいる姿を僕は見たことが
ない。