目の前に置かれたナポリタンとバナナジュース。組み合わせはどうであれ、とても美味しそうだ。僕もそろそろお腹がすいてきたところだったし、バナナジュースはサービスだとヒロさんは言っていたし、少しだけ橘に感謝してもいいかもしれない。
「ヒロさんぜーったい勘違いしてるなあ、あれ」
「勘違い?」
ナポリタンをフォークに巻き付けて口へと運ぶ。熱くて思わず顔が歪んだけれど、甘さと辛さがちょうどよくてとても美味しい。目の前の橘は、4種類あるうちのハムエッグを選んで頬張っているところだった。
「春瀬のこと、私の彼氏かなんかじゃないのかって思ってるよ、たぶん」
「彼氏って……そんなに信頼してるのに、唐沢のこと言ってないの」
「……言ってないよ」
ひとくち、ふたくち。橘がサンドイッチを頬張るところをなんとなく見ていると、僕がそれを欲しいと勘違いしたのか「食べる?」なんて聞いてくる。こういう時は気遣いができるらしい。きっと友達とお弁当の中身を交換するような気分で聞いたんだろう。僕はまったくそんな意味で橘を見ていたわけじゃないんだけれど。
「いや、いらない」
「なーんだ。見てるから欲しいのかと思っちゃった」
そう言ってから、橘がイチゴオレのストローに口をつける。「あー、これが本当に美味しいんだよねえ」と笑った橘の笑顔はいつものそれとは少し違うと思った。
「……なあ、橘は、どうして唐沢を捜そうとする?」
「……なあにー、いきなり」
パッと、まるでスイッチでもついているかのようだ。こうしてみると案外橘はわかりやすいのかもしれない。いつもの笑顔に切り替わった橘の瞳がゆらゆらと揺れ始める。
「本当に、唐沢を捜そうだなんて思ってるのか、疑問なんだ」
「……」
パクリ、ひとくちサンドイッチを頬張ると、橘は口角を下げて僕を見た。ゴクン、と飲み込む音が聞こえてから、僕の心臓の動きが少しだけ早くなる。
「……捜してるよ。……隼人のこと」