それには何も言い返すことがなく黙っていたのだけれど、今度はそんな僕を見て橘が笑い出す。

ていうか、僕は元から友達がいた方が絶対にいいという考え方に疑問を抱いているタイプの人間だ。橘とだって今日限りの関係だと思っているし、今後もひとりの方が気楽だと思っている。



「春瀬ってさあ、中2、だっけ、中3だっけ、ここに引っ越してきたの」

「……中3」

「あー、そうだそうだ、中3の夏だったよねえ。なんでこんな時期に、ってあの時みんなで言ってたんだった。転校生ってさ、来る方は不安だろうけど、迎える方は案外ワクワクするんだよ」

「へえ、来たのがこんな奴で残念だったな」

「ほんっとだよー。前髪長くて顔は見えないし、誰が喋りかけても『ああ』とか『うん』とかしか返ってこないし。わたし、一匹狼ってこういうことかって思ったよ」



ちょうどその時ヒロさんがやってきて、橘の口が一旦止まる。僕のナポリタンと橘のサンドイッチを順番にテーブルに下ろした。もちろん、バナナジュースとイチゴオレも。そして、またやわらかい笑顔を僕たちに向けてくれた。



「ふふ、ゆっくりしていってね」