すごく大切な場所だから、友達を連れてきたことがない。

それは、自分のテリトリーに他人を踏み込ませたくないということだろうか。僕には友人と呼べるほど心の許せる人間がいないから、橘の気持ちはわからない。けれど、それなら何故僕をここに連れてきたのだろう、と思う。

視線をあげると、橘はまだ自分の指先を見つめていて、いつものように口角をあげている。もしかしたら、それはもう彼女の癖なのかもしれない。



「友達って、あのクラスメイトたちとは……すごく、仲がいいじゃないか」

「うん、そうだね。わたし、みんなのことだいすきだよ」

「なんだそれ、意味わからな……」

「でもね、だいすきと信頼はまったく違う位置にあると思うんだ、私」



 橘の言葉に僕はなんて返せばいいのかわからなかった。息を吸う音が近くで聞こえる。



「ヒロさんとこのお店はね、わたしのすっごく大切な場所なんだ。そしてわたしは、ヒロさんのこと誰より信頼してる。……それなら春瀬のこと、どうしてここに連れてきたんだって思うかもしれないけど、何も考えてないわけじゃないよ。春瀬ならいいかなあ、って、単純にそう思ったんだ。はは、ヘンかな?」