橘の動作を真似る僕をじっと見つめる視線は気にしないことにして、僕らは改めて本堂の前へと立った。お互い、ポケットから取り出した五円玉を賽銭箱へと放り投げて手を合わせる。
参拝の仕方なんて正直よくわからないので、ここでも隣の橘を真似ておく。橘はヘンなところ常識があるらしい。
目を閉じて数秒間。パチリと目を開けると、隣の橘はまだ両手を合わせて目を閉じている。願いごと———だろうか。
何故こんなところへ来たがったのか不思議でならなかったのだけれど、もしかしたら橘は唐沢隼人が見つかるようにとこうして神頼みでもしたかったのかもしれない。
だいたい、橘があまりに無邪気で変わった奴だから時々忘れそうになるけれど、僕たちがこうして自転車を走らせているのは消えたクラスメイトを捜す———ただそれだけの理由だ。非現実、非日常のはずの受け入れ難いこの状況を、僕らはいやにすんなりと受け入れている。
特に橘は、仮にも唐沢隼人の恋人だったっていうのに。
「ちょっと、何見てるの、春瀬」
「え、」
いきなりの橘の声に、僕はすっとんきょうな声をあげてしまう。横から僕を不思議そうにみあげる橘の額にはじんわりと汗が浮かんでいる。
「なーに? 見惚れてたー?」
「……そうであったらよかったんだけど」
「そうだったくせに」
「いや、考え事してた」
「少しはノってよばかやろう」
ジャリ、とスニーカーと地面がこすれる音がした。橘は今、何を願ったんだろう。
「で、ここはもう満足した?」
「うん、そうだね……」
唐沢を捜すのが目的のはずなのに、そんな素振りは一切見せない。自転車を漕いで、神社へやってきて、手を合わせて頭を下げて。橘が本当は何の目的で『隼人を捜しに行こう』なんて言ったのか、僕はそんなところにすでに疑問を覚えている。
「ね、春瀬、石積もうよ」