「するけど……おまえには遠慮ってものがないのかよ」

「だって私、ケータイしか持ってないもん」

「いや、それは知ってるけど」

「いいじゃん、五円くらい、ケチケチしないのー」



 ご縁がありますようにって、五円玉。めちゃくちゃありきたりだけれど、しょうがない。ポケットから茶色い二つ折りの財布を取り出すと、小銭入れにはちょうど五円玉がふたつ、双子のように並んでいた。



「ほら」



 いつの間にか社殿の前まできていた僕らは、お賽銭箱の目の前で足を止める。

橘が両手を差し出してきたので、僕はその上に右手を差し出して、コロン、とその手のひらに五円玉を落としてやった。



「へへ、ありがとう」



その五円玉を大切そうに握りしめた橘が、そう言って笑った。キラキラ、光ってるみたいな、そんな笑顔。こんなにもデリカシーがなくてワガママでヘンな奴なのに、僕が手を伸ばしたってきっと触れることすらできないような、そんな、光みたいなものだと思ってしまうくらいの。