思い出したら、ずきずきと頭が痛みだした。

私より仕事のほうが大事で、授業参観も運動会も一度も来たことないくせに。
なにが心配だというのだろう。


「ふざけてるのはどっち? 家にいる間、うとましそうな目してたくせに。叔母さんの家に行くって決まって、うれしかったでしょう。面倒な娘がいなくなって」
 
ほんのすこしの間忘れていた感情が一気に蘇った。
どれだけ頑張ったって、ふたりの目が私に向けられることはなかった。
好きなことをしなさいって、同年代からしたら倍額以上のお小遣いを渡してきて、うちは娘に自由にさせてるんですよって、一見よさげな親面して。

私が欲しいものはお金じゃなかったし、どんなにお金をかけたってきっと手に入らなかった。
 

それとも、私が世間に自慢できるような、たとえばモデルとか女優とか、進学校でトップの成績を誇るような頭脳の持ち主とか、トロフィーになる娘だったら、すこしは違っていたのだろうか。
 

父親が怒鳴っているのを、ずっと聞き流していた。
まともに聞く必要はないよなって気づいた。

しかも今なら、声に色が見えないから必死に目をそらす必要もない。
父の横で遠慮がちになにかを言う母親も見なくていい。
 

なにを言われようと、もう平気かもしれない、と思っていた。


『家に引きこもってなにもしないお前がなにを言う。口答えするならなにかを成し遂げてから言いなさい。どうせなにもできないんだろう』
 
けれどそのことばだけは、私の胸に深く突き刺さって破裂した。
悔しいけれど、それはその通りだってわかっているから、反論できなかった。
 
身体がばらばらと分解されるみたいな、気分だった。


「うるさい、私の気持ちなんか、なにも知らないくせに」
ようやく絞り出した声に、覇気はなかった。
向こうにもそれは伝わってしまっているだろう。


『お前が言おうとしないことを知る術がどこにある』
無情にも、そう言われて一方的に電話は切れた。
 

ふたりは、私と血の繋がった家族じゃないのだろうか。
娘のことを理解しようとする気持ちはないのだろうか。

胸が苦しい。突き刺さった父のことばがどんどん深部へと進んでゆく。
 

通話の終わった画面に、友哉からのメッセージが表示された。

『晴ってそういう感じじゃなかったと思うんだけど』
 
だったらどうだと思っていたんだ。
私はずっと私だ。

あんたはいったい私のなにを好いて彼女にしようとしたんだ。
そういう感じが嫌だったなら、友哉は私になにを見ていたんだろう。