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鼻に付く独特な香り。
重い瞼をゆっくりと開くと、真白な天井と蛍光灯の眩しさに、再びキュッと目を瞑る。
「……な!奈々!?」
もう一度目を開けると、お母さんが心配そうに目を潤ませて私の顔を覗き込んでいる。
「……え?お母さん?」
「お母さん?じゃないわよ!よかった……どこか痛い?お母さんのこと分かるわよね?」
私の気持はとても落ち着いているというのに、いつものんびりしているはずのお母さんが、何故か凄く焦っていた。
「どうしたの……?」
自分の置かれている状況をすぐに把握することが出来ず、横になっている体をゆっくり起こそうとした時、突然襲ってきた強い痛みに顔を歪めた。
「痛っ!なに?足痛い……」
「足だけ?他は大丈夫?今先生来るから」
先生……?
その言葉に、初めて私は周りをぐるっと見渡した。
白い壁に囲まれた部屋には大きな窓、右を向くとテレビが置かれていた。
「ここって……」
「軽い脳震盪と足の打撲だけで他に異常はないって言われたのに、あんた中々目を覚まさないからみんな心配して……」
止まることのないお母さんの言葉に耳を傾けているけれど、なんだか現実味がなくて心がフワフワと落ち着かない。
お母さんって、こんなに早口で喋れるんだ。