鞄の中からパジャマを取り出し、無言で着替え始めた香乃。

私にとっては香乃の着替えなんて見慣れたものだ。あたり前だけど、なんの恥ずかしさも感じない。

いちいち着替えていい?とも聞かないし、脱いだコートは勝手にハンガーに掛けている。

その辺が姉妹のような感覚なのかも。正直そういうところがすっごく楽だし、多分普通の友達じゃこうはいかないと思うから。


「それ新しいの?」

「うん、これから寒くなるから新しいの買ってもらったんだ」


薄い紫色のパジャマは触らなくても分かるぐらいモコモコしていて、触るとやっぱりフワフワモコモコで顔を擦り付けたくなるくらい柔らかい。

おまけに黒猫がポケットから顔を出しているような絵がとても可愛い。


「香乃っぽいね、可愛いよ」

「奈々もさ、いつまでもジャージにトレーナーじゃなくて、可愛いパジャマくらい着たら?」


そう言って奈々は荷物を隅に置き、嬉しそうに跳ねるようにして勢いよくベッドに座った。


「なんで?いいよ別に。誰に見られるわけでもないのに」

「分かんないじゃん」

「は?」


私は寝転がっていた体を起こして、ベッドの上で香乃と向かい合う。


「奈々はさ……好きな人とか、いないの?」


こんな質問、昔からよくされてきた。いない時はいないって言うし、いる時は……大抵自分から香乃に話していた。

でも今は、どうしてなのか口が上手く動かない。それに、香乃から目を逸らしてしまう自分がいた。


「なに急に、変なの」

「別に変じゃないよ。だって私達、女子高生だよ?恋愛したいし、彼氏も欲しいって思わない?」


すぐに答えることが出来なかった。

誤魔化すようにベッド脇にある本棚に手を伸ばし、漫画をパラパラと捲り始める。


「まぁね、こんな胸キュン溺愛漫画みたいな経験できるならいいけど」

「じゃー奈々は好きな人いないってこと?」