「落ち込んでても仕方ないよ!」

香乃は私の背中を擦りながら、真剣な眼差しで私を見つめた。

「香乃……」

「ポップコーンを作るには、機械の他にどんな方法がある?」

「えっと、あとはフライパンかな」

「じゃー今すぐ修司に連絡して、先生に家庭科室のガス台とフライパン使えるか聞いてもらいな」


いつものんびりしているはずの香乃にハッキリとした口調でそう言われ、私は急いで修司に電話をかけた。


「あ、もしもし修司、あのね……」


『……うん分かった、じゃーとりあえずまたすぐ折り返す』



怖くて、不安で、心臓の鼓動はいつまでたっても落ち着いてくれない。

堪らずその場にしゃがみこむと、スマホを握っている私の手に香乃の手が重なった。


「奈々、大丈夫だよ。もしどうにもならなくて予定通りにいかなかったとしても、それも文化祭の思い出になる」


「……」


「きっとお店のおじさんが聞き間違えただけだよ。四組のみんなが奈々を責めることは絶対ないし、もし万が一そういうことがあったら、私がみんなを怒ってやる!」


「香乃……」


「それにさ、修司はそんなことで誰かのせいにしたり、ガッカリするような人じゃないでしょ?こんなトラブルなんか、きっと気にもしてないよ」


泣かないように必死に耐えてたのに、ずっと私に微笑みかけてくれている香乃の顏を見た瞬間、目に溜めていた涙が頬を伝った。


「ありがとう……でも、最後まで諦めないで出来ることはやってみる」


出来立てのハチミツバターの味は、本当に美味しかったから。

一年四組としての文化祭は一度きり。楽しかったねって、笑って終わりたいんだ。

だって私は、文化委員だから。


立ち上がってスマホの画面を見つめると、修司からの着信にワンコールも鳴らないうちに通話ボタンを押した。