「今月から冷やしつけ麺始めたから、頭に入れといて」

「はい」



渡されたメニューで、冷やしつけ麺のレパートリーを確かめる。

ノーマル、焦がしネギ入り、特選かつおだし…。



「どれ売りたい?」

「焦がしネギだな」

「了解」



言っているうちに、スーツ姿のお客さんがふたり入ってきた。

入口にある券売機の前で、なにやら真剣に悩んでいる。



「こちら、人気です」

「あ、ほんと? じゃあこれにしよ」



横から焦がしネギのボタンをちょんと指さすと、すぐそれを押してくれた。



「ご一緒に冷たいライス、いかがですか」

「冷たいライス!」

「スープが冷たいので、あえて冷やしてお出ししてるんです、合うんですって、これが。もちろん冷えてもおいしいお米で」

「へえー、じゃそれ大盛り」



毎度です、とお礼を言いながら席に案内する。



「冷やし・焦がし2丁入りまあす、冷や飯大盛り各1」

「まいどっ」

「お皿洗うね」

「郁実ちゃん、二十歳になったら俺のとこに嫁に来てね」

「店長さん、奥さんも子供もいますよね?」

「新しい子?」



カウンターの中から冷たいおしぼりを出すと、受け取りながらお客さんが訊いてきた。

店長さんがテボをお湯に立てながら答える。



「うちの秘蔵っ子です」

「いいなあ、セーラー服」

「お前、好きそうだもんなあ」



嬉しそうに盛り上がるお客さんに見えないよう、店長さんが"ほらな"と言いたげな目つきを送ってきた。

ゴム手袋をはめて、はいはいとうなずく。