これね、決定打だった。

予感はあったんだけど、いくらなんでも、とか、で、どうするの、とかいろいろ考えて、打ち消そうとしていたのだ。



『健吾くん』

『ん?』

『私とつきあって』



今思えば、脅しだよね、タイミング的に。

そういう考えも及ばないくらい、あのときは思ってたの。


もうダメだって。

この人のこと、好きすぎるって。

だから私のものになってほしかった。



「寝るか、今日、早出だったから眠い…」

「明日、出るの何時?」

「遅くて平気だな」

「そう」



本当に眠そうな様子で洗面所に立って、歯ブラシをくわえた姿が、鏡越しに私を見た。

ふっと目を細めて、私の頭をぐいと揺らす。



「ちゃんと起こせよ」



なんでわかるの?

遅くまで寝ていられるなら、起こしたらかわいそうだから、そうっと出ていこうとしていたこと。

でもやっぱり、行ってこいよって送り出してほしかったこと。

こんな健吾くんだから、きっとあのときも、『うん』て言う以外、できなかったんだと思う。


私とつきあって。

そう言うと健吾くんは目を丸くして、お菓子を食べる手を止めた。

それから視線を落として、少し考えて、やがて顔を上げ『うん』と言った。



『いいよ』



それしか言えなかったよね。

罪悪感でいっぱいのところに、同情誘うような話して、逃げ場なくさせてごめん。

追い打ちをかけるようにつきあってなんて言ってごめん。


抱きつくと抱きしめ返してくれる、ベッドの中の健吾くん。

言っても嫌がるだけだろうから、心の中で繰り返しておくよ。


ごめんね。

でも好きなんだ。


ほんとにほんとに、好きなんだよ。