「あっ、ごめん、今日は一緒にごはん、無理なんだ」



一日ドライブデートを楽しんだ後、さあどこで夕食にしよう、という話になったところで、郁実が突然そんなことを言った。

てっきり夜まで一緒にいられると思っていた健吾は肩透かしをくらったような気分で、「あ、そうなの?」と車の行き先を思案する。



「このまま家に送っていったほうがいい?」

「駅で降ろしてくれる? 靖人が帰ってくるの」



まるで、健吾が一緒に喜ばないなんてあり得ない、とでもいうように、郁実が屈託のない笑顔を見せた。

ちょうど駅の近くを走っていたため、別れはすぐだった。



「ありがと、バイバイ!」

「…うん、じゃな」



車を飛び出して、おざなりに手を振ると、一目散に構内に向かって駆けていく。

大学生になって最初の春も終わり、高校生らしさもだいぶ抜けてきた背中を見送りながら、心の中のもやもやと戦った。


あのさあ。

俺だってさあ。


──俺だってさあ!





「なによ、来ないんじゃなかったの」

「うるせーな、土曜の夜なんかに集まってんじゃねーよ」

「来てる奴がなに言ってんのよ!」



同期と気心の知れた仕事仲間が集まっている居酒屋で、座敷に腰を下ろすなりまず煙草に火をつけた。

あきれを隠しもしない青井が「ビールでいい?」と訊いてくるのに、首肯のみで返し、ひたすら煙を吸う。

くそ。



「なに荒れてんのよ」

「荒れもするわ」

「郁実ちゃん、夏休みでしょ? いっぱい遊ぶんじゃなかったの」

「郁が夏休みってことは、学生みんな夏休みなんだよ!」

「はあ…?」



盲点だった。

勉強にバイトにと真面目に精を出す郁実は、学期中はなかなか忙しく、高校時代に比べて平日に会える機会が減った。

その代わり、兄にきちんと承認をもらったおかげで、週末は大っぴらに泊まらせることができるようになった。