「うちの卒業式、面白いよな」

「気楽だよね、笑いっぱなしだったよ」



送辞や答辞なんてものもなく、下級生代表の出し物や、人気投票で選ばれた教師の愉快な講話などで終わる、不思議な卒業式なのだ。



「みんな泣いた?」

「ううん、高校生にもなると、会いたきゃこれからも会えるってわかるから、さみしくもないみたいで」

「そうなんだよな」



映画を観る前に早めの昼食を取り、午後、小腹がすいたので、手軽にファーストフード店に来ている。

ハンバーガーをかじる健吾くんを見ていたら、顔が自然とにやついた。



「ふふ」

「またか」

「だってさあー」

「いい加減、反すうすんのやめろよ…」



みるみる顔を赤くして、嫌そうに顔をしかめてうつむいてしまう。

そんな様子すらかっこいい。


念願の"続き"をしてもらってから一か月ほど。

年度末ということもあって、健吾くんは土日もないほど忙しくなってしまい、まとまった時間会うことはなかなかできなかった。

けれど私はもうおなかいっぱいで、あ、しばらく会うとかいいですよ、みたいな感じだった。


だってもう、あのときの記憶で脳が満たされまくりなのだ。

自分の体験は、それはそれでまあ、痛かったり幸せだったり新感覚だったり、いろいろあったんだけれど、それよりも。

健吾くんがかっこよくて、色っぽくて、かわいくて、一瞬たりともそれを見逃すまいとずっと目を見開いていたので、途中で「怖い」と目をふさがれてしまったほど。


今でも鮮明に思い出せる。

すっとした首筋とか、そこから肩に伸びるきれいなラインとか、そのあたりが汗ばんで光っている様子とか、ちょっと顔を歪めて、切羽詰まって呻く声とか。

男の人って、気持ちよくなると、あんな甘い、切なそうな表情になるんだね!

そんな顔をさせているのが、ほかでもない自分だと思うと、女に生まれてよかったなんて生意気な考えが押し寄せてきたりもした。


ああ、脳内のこのビジョンを、取り出してデータ化して保存しておける技術が早く開発されればいいのに。

それを再生するだけで、私あと三か月くらいなにも食べずに生きていけそうな気がする。