でも不安はあるよ、いつだって。

しょうがないじゃない、それとこれとは別なんだよ。

そんなこと言うなら、どうしたらいいのか教えてよ。


健吾くんに悟られないよう、手の甲で涙を拭いた。



『じゃ、おやすみ。ハメ外しすぎんなよ』

「うん、おやすみ」



…挨拶を交わした後も、なぜか向こうが切らない。

どうしたんだろうと首をひねっていると、案じるような声がする。



『郁、なにかあった?』

「え…」

『用もないのにかけてくるとか珍しいし、ちょっと元気ないし』



喉が詰まるほど涙が溢れた。



「…大丈夫、合宿で変なテンションになってるだけ」



様子を探るような間の後で、『そっか』と私の嘘を許してくれる。



『ちゃんと楽しめよ、じゃあな』

「うん」



大好きだよ、健吾くん。

でも靖人の言葉を否定できない。

健吾くんが本気なわけないって、私、確かにそう思っている。

優しいし、かわいがってくれるけど、じゃあ私に恋してるかって言ったら、それは違う気がしている。


でもそれでもいいんだよ。

私には十分。

そう思うのに、不安にはなるの。

ほんと勝手だ。


──ないと不安か。あれば安心なのかよ。


バカ靖人。

あったって不安だよ、決まってるでしょ。

でもないよりいいの。


なにがあれば安心できるんだろう。

どこまで欲しがるつもりなんだろう。



「健吾くん、ごめん…」



切れた携帯を握って、抱えた膝に顔を埋めて、いったいなにに謝っているのかもよくわからないまま、ごめんなさい、と何度もつぶやいた。