ふと美菜さんの視線が揺れて、泣きそうな表情になった。
髪をかき上げて、涙をこらえるように顔をしかめる。
「ごめん…郁実ちゃんが悪いんじゃないのに」
「美菜さん…」
開きかけた口を閉じた。
なにを言うつもりなわけ、私?
ごめんなさい?
──何様?
美菜さんが、振り切るように顔を上げ、健吾くんに言った。
「ごめん、私、これで帰る。靖人くんによろしく伝えて」
「あの…なんの話?」
フードのバスケットとドリンクの入った手提げ袋をどさりと渡されて、健吾くんが困惑した声を上げる。
美菜さんは苦笑して、ちらっと私を見た。
"ほんと仕方ないわね"みたいな具合に。
「いくは、もう二度とないって思ってたかもしれないけど、私はいつか次がないかなってずっと期待してたの。そういうこと」
「え?」
「よりによって彼女にばらしちゃってごめんね。せっかくなら、それをきっかけに亀裂でもなんでも入ってくれてよかったのに」
ぽかんとしたままで、いっこうに理解の進まない様子の健吾くんに、美菜さんが毅然と微笑んで、語調を強めた。
「ずっと前からいくが好きよ。ついでに言うと、気づいてなかったとは言わせない。そのほうが楽だから、気づかないようにしてただけだよ、いくは」
健吾くんの目が、見開かれていく。
「じゃあ、また月曜にね」
それだけ言い残して、美菜さんは行ってしまった。
健吾くんは目で追うこともせず、呆然とフードを抱えたまま。
その表情がだんだんと、混乱とか後悔とか、自責の念とか、そんなものに包まれていくのを、私は横で見ていた。
■
「くじ引いてない人ー」
「こっち、2枚足りない」
「あれ?」
ホームルーム委員の番場(ばんば)くんが、ティッシュの空箱の中をのぞく。
「底に引っついてた、はい引いて」
髪をかき上げて、涙をこらえるように顔をしかめる。
「ごめん…郁実ちゃんが悪いんじゃないのに」
「美菜さん…」
開きかけた口を閉じた。
なにを言うつもりなわけ、私?
ごめんなさい?
──何様?
美菜さんが、振り切るように顔を上げ、健吾くんに言った。
「ごめん、私、これで帰る。靖人くんによろしく伝えて」
「あの…なんの話?」
フードのバスケットとドリンクの入った手提げ袋をどさりと渡されて、健吾くんが困惑した声を上げる。
美菜さんは苦笑して、ちらっと私を見た。
"ほんと仕方ないわね"みたいな具合に。
「いくは、もう二度とないって思ってたかもしれないけど、私はいつか次がないかなってずっと期待してたの。そういうこと」
「え?」
「よりによって彼女にばらしちゃってごめんね。せっかくなら、それをきっかけに亀裂でもなんでも入ってくれてよかったのに」
ぽかんとしたままで、いっこうに理解の進まない様子の健吾くんに、美菜さんが毅然と微笑んで、語調を強めた。
「ずっと前からいくが好きよ。ついでに言うと、気づいてなかったとは言わせない。そのほうが楽だから、気づかないようにしてただけだよ、いくは」
健吾くんの目が、見開かれていく。
「じゃあ、また月曜にね」
それだけ言い残して、美菜さんは行ってしまった。
健吾くんは目で追うこともせず、呆然とフードを抱えたまま。
その表情がだんだんと、混乱とか後悔とか、自責の念とか、そんなものに包まれていくのを、私は横で見ていた。
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「くじ引いてない人ー」
「こっち、2枚足りない」
「あれ?」
ホームルーム委員の番場(ばんば)くんが、ティッシュの空箱の中をのぞく。
「底に引っついてた、はい引いて」