ふと美菜さんの視線が揺れて、泣きそうな表情になった。

髪をかき上げて、涙をこらえるように顔をしかめる。



「ごめん…郁実ちゃんが悪いんじゃないのに」

「美菜さん…」



開きかけた口を閉じた。

なにを言うつもりなわけ、私?

ごめんなさい?

──何様?


美菜さんが、振り切るように顔を上げ、健吾くんに言った。



「ごめん、私、これで帰る。靖人くんによろしく伝えて」

「あの…なんの話?」



フードのバスケットとドリンクの入った手提げ袋をどさりと渡されて、健吾くんが困惑した声を上げる。

美菜さんは苦笑して、ちらっと私を見た。

"ほんと仕方ないわね"みたいな具合に。



「いくは、もう二度とないって思ってたかもしれないけど、私はいつか次がないかなってずっと期待してたの。そういうこと」

「え?」

「よりによって彼女にばらしちゃってごめんね。せっかくなら、それをきっかけに亀裂でもなんでも入ってくれてよかったのに」



ぽかんとしたままで、いっこうに理解の進まない様子の健吾くんに、美菜さんが毅然と微笑んで、語調を強めた。



「ずっと前からいくが好きよ。ついでに言うと、気づいてなかったとは言わせない。そのほうが楽だから、気づかないようにしてただけだよ、いくは」



健吾くんの目が、見開かれていく。



「じゃあ、また月曜にね」



それだけ言い残して、美菜さんは行ってしまった。

健吾くんは目で追うこともせず、呆然とフードを抱えたまま。

その表情がだんだんと、混乱とか後悔とか、自責の念とか、そんなものに包まれていくのを、私は横で見ていた。





「くじ引いてない人ー」

「こっち、2枚足りない」

「あれ?」



ホームルーム委員の番場(ばんば)くんが、ティッシュの空箱の中をのぞく。



「底に引っついてた、はい引いて」