「……は? 何だよ、まじで白けるわー」


茶髪の男子は気まずさを紛らせるように悪態をつき、足音を立てながら教室を出ていった。

凍りついていた空気が少しだけ緩んだ。


「……さすが彼方、かっこいい!」


A組の男子の一人がみんなの緊張をとくように明るい声をあげると、周りで笑いが起こった。


「頑張ってる人を馬鹿にするのはみっともないって、彼方が言うとめちゃくちゃ説得力あるなー」


もう一人が彼方くんの肩をばしんと叩くと、彼方くんは「痛いよ、強すぎ」と笑った。


それで一気に教室の空気が柔らかくなる。

みんながそれぞれ教科書を片付けたり席を立ったりし始めたのを横目に見て、彼方くんが私に視線を落とした。


「遠子ちゃん、ごめんな」


謝られて、私は驚いて目を見開く。

彼方くんは本当に申し訳なさそうな表情をしていた。


「俺のせいで嫌な思いさせちゃって……気分悪かっただろ?」

「えっ、そんなことないよ」


私は慌ててふるふると首を横に振る。


「むしろ、かばってくれて、ありがとう……」


お礼を言うと、彼方くんがふわりと花咲くように笑った。


「よかった、ちゃんと口きいてくれて」


え? と首をかしげると、彼方くんは眉をさげて少し情けない顔になった。