彼は薄い笑いを浮かべながら言ったけれど、もう周りの誰も彼に合わせて笑うことはなかった。

彼方くんの真剣な眼差しのせいだろうか。


「おまえさ、そういうこと言うの、やめろよ。みっともないよ」


彼方くんは激しい口調ではなく、諭すように言った。


「頑張ってる人を馬鹿にするのはみっともないよ。努力を馬鹿にするのは情けないから、やめたほうがいいと思う」


意外だった。

彼方くんはいつもにこにこしていて朗らかで、人前できついことを言ったりするタイプには見えなかったから。


そんな彼が、今、クラスメイトに厳しいことを言ったのだ。

気まずくなるかもしれないのに。

自分の立場が悪くなるかもしれないのに。


彼がそんなことをしたのは、もしかして、私のため?

そんな身勝手な思いが込み上げてきた。


きっと思い違いだ。

なんて思い上がっているんだろう、私は。


彼方くんは自分自身がとても棒高跳びを頑張っているから、日々努力しているから、そういう頑張りを馬鹿にされたのが嫌だっただけだ。

私のためなんかじゃない。


彼方くんが私のために、私を守るために言ってくれたなんて、とんでもない思い上がりだ。


分かっているのに、嬉しさに包まれてしまう。