思わず俯く。


「彼方までオタクと思われるぞ、そんなのと仲良くしないほうがいいって」


茶髪の男子の声で小馬鹿にするような言葉が降ってくる。


そんなの、言われなくても分かってる。

彼方くんが私なんかと仲良くしたっていいことなんかないって、仲良くしないほうがいいって、そんなこと分かってる。


でも、言い返せるわけなどなくて、ただひたすら、彼の言葉が止むのを待っていた。

でも、その前に、彼方くんの声が響いた。


「やめろよ、そういう言い方」


彼方くんのものとは思えない、険しい口調だった。

びっくりして顔をあげると、彼方くんの声だけでなくて表情も厳しいものだった。


きつい目つきで茶髪の男子を見つめている。


「お前は知らないだろうけどさ、遠子は本当に絵が上手いんだよ」


遠子、と呼び捨てにされたのは初めてだった。

そのことが衝撃的すぎて、彼の言葉の内容がうまく頭に入ってこない。


「上手いのは、ただもとから才能があったからとかじゃなくて、遠子がすごく頑張って練習して、描き続けてきたからなんだよ」


冗談で言ったつもりだったらしい男子は、いきなり彼方くんに真剣な顔できついことを言われて気まずくなったらしく、取り繕うように言葉を続けた。


「頑張って練習って……スポーツじゃなくて、絵だろ? やっぱりただのオタクじゃん、キモい」