「よし」


しばらくしてから彼が声をあげ、私を見た。


「なんか、いけそうな気がしてきた」


そう笑った顔は、すっかり今までの元気で明るい彼方くんのものだった。


「遠子ちゃん、本当ありがとな。おかげでめっちゃ元気出たし、やる気出たし、ヒントももらったよ」

「え……そんな、私は何もしてないよ」

「ううん。遠子ちゃんが黙々と描いてる姿とか、とにかく描くって言葉とか、すごく胸打たれたんだ。それに、この絵も」


彼方くんが二枚の絵を私の前に広げる。


「最近の自分のどこが良くないか、この絵を見たらなんとなく分かってきた。すぐに直すのは難しいだろうけど、少し意識して跳ぶだけでも全然違うからさ」


絵を見ていた彼方くんがぱっと顔をあげると、同じように覗きこんでいた私との距離が意外にもすごく近くて、どきりとする。


「とりあえず、跳んでくるわ」


じゃ、と手を振りながら彼方くんは駆けていった。


まだ鼓動がおさまらない。

色んな意味でどきどきしていた。


彼方くんのことを好きだと言ってしまった。

彼方くんを描いた絵を見せてしまった。

ありがとう、と言われてしまった。


でも、悩んでいた彼方くんの力に自分が少しでもなれたのなら、それでいいか、とも思えた。