目を丸くしていた彼方くんが、ふはっと柔らかく噴き出した。

それからけらけらと笑う。


こんなふうに屈託なく笑うのを見たのは久しぶりだった。

ずっと棒高跳びのことで悩んでいて、落ち込んでいたのだろう。


「ははっ、ごめんな、笑っちゃって。なんか、遠子ちゃんのリアクションが面白かったから」

「ううん……私の言い方もおかしかったし」

「ああ、身体が好きって。まさか遠子ちゃんがそんなやらしいこと言っちゃうなんてな」


かあっと顔が熱くなる。

心臓がばくばくとうるさい。


「あはは、すごい真っ赤」


彼方くんがおかしそうに笑いながら覗きこんでくる。

私が両手で頬を押さえて「見ないで……」とうめくと、「ごめん、ごめん」と彼は謝ってくれた。


「それにしても……」


彼方くんの声がふいに真剣なものになり、見てみると、私が渡したスケッチをじっと見つめていた。

二枚の絵を交互に見ながら、彼方くんは何か考え込むような仕草をしている。


「これ、本当よく描けてるな……すごく参考になるよ」


うん、そういうことか、と独りごちながら、最近のほうの絵を凝視する。