「いろんな色を重ねて、混ぜ合わせて、それで少しずつ出したい色に近づけていくから。だから、形も最初はぼんやりしてて曖昧で、だんだんはっきりさせていくの」


言いながら、まるで恋と同じだ、と思った。

初めはぼんやりした形と色をしているのに、小さなことがきっかけになっていろんな感情の色が重なりあって、だんだんとはっきりした形が作られていく。

そして、いつの間にか、知らないうちに、ほのかな憧れが色鮮やかな恋になっている。

たとえそんなつもりはなくても、勝手に。


「へえ、そっか。じゃあ、ますます完成するのが楽しみだなあ。どんな絵になるか」


彼方くんは目を細めて楽しそうに笑った。


完成するまで毎日見に来るの? という言葉が飛び出しそうになって、私は慌てて唇を噛んだ。

そんなこと、訊かなくていい。

訊く必要はないし、訊かないほうがいい。

知らないほうがいい。


来てくれなくたっていいんだ。

むしろ、来ないほうが助かる。

だって、集中できないし。


……ちがう、そんなのは嘘だ。

自分に嘘をつきたくて、言ってみただけ。


私は確かに、彼が来るのを楽しみにしている。

だから、彼が覗きこみやすいこの場所に必ずキャンバスを置いて描いているし、彼が来るかもしれない時間には必ず美術室にいるようにしている。


我ながら見え透いた行動だ。