それからまたキャンバスに視線を戻し、しばらく見つめてから、彼はくるりと振り向いた。


「良かったらさ、他の絵も見てみたいな。完成してるやつとか」


屈託のない笑顔。

心臓が今にも爆発しそうに激しく脈うちはじめた。


「あ、嫌だったら全然構わないんだけど」

「えっ、嫌だなんて……ないよ」


断れるはずもなく、私は恥ずかしさを覚えながらも立ち上がる。

美術室の後ろには木棚があり、その中にたくさんのキャンバスが立てて並べられていた。


左のほうがより古いもので、何十年も前の作品もあったりする。

右のほうには、ここ数年のものが並んでいて、一番右には今年の作品が立てかけられている。

今年と言っても、ほとんどが深川先輩のもので、あとは私のものしかない。


その中から、五月に描いた小さな作品を取り出した。

緊張のあまり足に力が入らなくて、手も小刻みに震えて、うまく声が出せない。


私は無言で彼方くんに絵を見せる。

その瞬間、彼が「わあ」と声をあげた。


「猫の絵だ。すごい、本当に上手いな。毛並みとか一本一本描いてある! 浮き出てるみたい、やべえ」


彼は照れもせずに褒め言葉を次々に並べ立てる。

恥ずかしくて、嬉しくて、おかしくなりそうだった。


それで俯いていた私は、だから次の彼の言葉が聞こえたとき、弾かれたように顔をあげた。


「とこ?」