すると、そんな私の疑問に気づいたのか、彼方くんが言葉をついだ。


「なんかさ、風の噂? っていうか。噂でもないけど、なんとなく知ってるよ。この前、コンクールで賞もらって表彰されてたよな」


言葉が出なかった。

まさか、彼方くんが私のことを知っていたなんて。


確かに先月、入学して初めて出品した小さな絵画コンクールで、佳作をもらって全校集会で表彰されたけれど、

あのときは深川先輩が審査員特別賞をとって学校がちょっとした騒ぎになったので、私のように小さな賞をとったくらいでは誰にも注目されていないと思っていたのに。


唖然としている私に、彼方くんが屈託のない笑顔を向けた。


「すごいよな、表彰されるなんて。部活、がんばってな」


そう言って手を挙げて立ち去ろうとする彼に、思わず「あっ、あの」と声をあげて呼び止めた。


「……か、羽鳥くん」


彼方くん、と呼びそうになって慌てて言い直した。


「羽鳥くんも、練習、がんばってね」


なんとかそれだけを口に出した。

彼方くんはにこっと笑って、風のように駆け抜けていった。