何度も、何度も、黙々と彼は跳びつづけた。

まわりの陸上部員たちはおしゃべりをしたりふざけあったりしているのに、彼だけは一人、飽きることなく跳びつづけた。


それだけでその誠実で真面目な人柄が分かる気がした。


恋に落ちた、と私は自覚した。

一目惚れなんてありえないと思っていたのに、私は彼を初めて見た瞬間に、彼のことを好きになってしまったのだ。


そして、次の瞬間に、失恋した。


『あれがね、あたしの好きな人』


隣で囁く遥の言葉が耳に入った瞬間に、私はその恋を終わらせた。

私は彼の姿から目を背けて、もう二度と見ない、と心に決めた。


遥はグラウンドに向けていた視線をちらりと私に向けて、恥ずかしそうに頬を赤らめながら言った。


『A組の羽鳥彼方くん。遠子、知ってる?』


知らない、と私は首を横に振った。

少しも興味がない、と遥に伝えるために、私はそっぽを向いて『今日、いい天気だね』なんて白々しいことを言った。


言いながら、思い出していた。

遥が何日か前に、『実は入学してすぐの頃からずっと好きな人がいる』と香奈と菜々美に話していたことを。


ああ、この人のことだったのか、と彼を決して見ないようにしながら思った。

じゃあ私は絶対にこの人のことだけは好きにならない、と自分に誓ったのだ。