つられたように私たちも廊下のほうを見る。

どきりと胸が音を立てた。


彼方くんがいた。

何人かの男子と一緒に歩いている。


菜々美が「あっ、噂をすれば」と声をあげた。


それが聞こえたのかは分からないけれど、笑いながら横を向いていた彼方くんが、ふっとこちらを振り向いた。


どくどくと心臓が脈打つ。

変な顔になっていそうな気がして、遥たちに見られないように私は一歩後ろに下がった。


「あっ、遥ちゃんだ」


彼方くんの隣にいた男子がそう言って、にやにやと笑いながら彼方くんを肘でつついた。


それを見て、さあっと血の気が引いたような気がした。

彼らの間でどんなやりとりがあったのか、なんとなく分かってしまった。


きっと、彼方くんが遥から話しかけられたことで騒いでいたんだろう。


『あの遥ちゃんに声かけられるんなんて、お前ラッキーだな。羨ましい』


とか、言われたのかな。

そして彼方くんは、


『近くで見たらめっちゃ可愛かった。笑った顔とか最高だよ』


とか、答えたのかな。


そう考えて、自分でも驚くくらいに胸が痛くなった。


当たり前のことなのに。

遥は可愛くて有名だし、男子にも女子にも人気があるし、あの笑顔を間近で見たら、きっと誰だって彼女のことを好きになるはず。


分かっているのに、苦しかった。