「ねえねえ、遠子から見て、遥と彼方くん、どんな感じだった?」


香奈が私に抱きついたまま、首を傾げて訊ねてくる。

私は身体を少し硬直させたまま、「え?」と聞きかえした。


「彼方くん的には遥のことどう思ってるっぽい?」

「うーん……」


遥の前でそんなことを訊かれても困る。

どんな顔をすればいいのか。


無責任なことは言いたくない。

でも、よく分からない、とも言えないし。


少し迷ってから、私は口を開いた。


「けっこう、いい感じ、だと思ったよ。彼方くん、遥ににっこり笑いかけてたから」


迷った末、慎重に事実だけを伝えた。

いい感じだと思ったのは本当だし、彼方くんが笑顔を見せたのも本当だ。


私の答えを聞いて、香奈と菜々美が「きゃあ」「本当に!?」と声をあげた。


「そりゃそうだよね、遥みたいに可愛い子から声かけられたら、男なら絶対嬉しいもんね!」

「ええー? そんなことないよ」


香奈の言葉に遥は困ったように眉をさげる。

遥は今まで何度こういうことを言われてきたんだろう、とふいに思って、自分の中の黒い感情に嫌気が差した。


「そんなことあるって! このままどんどん仲良くなったら、本当に付き合っちゃうかもね」


香奈がからかうように笑ったそのとき、遥の視線がすっと廊下側の窓に流れた。