立ち上がり、遥の肩を押して彼方くんの席に向かう。

彼は教材を片付けながら、他のクラスの男子たちと談笑していた。


「ねえ、でも、どうしよう、話題なんかないよ……なんて話しかければいいの」


遥は焦ったようにそう言って、足を止めた。

私は少し考えてから答える。


「勉強のこととか、部活のこととか……」

「ええー、勉強? 何も思いつかない。部活も、陸上のことはよく分からないし……」


遥は困惑した表情で足を止める。

せっかくの機会を逃してしまう、と焦った私は、彼方くんのほうに視線を投げた。


そのとき、彼の足元に消しゴムがひとつ、落ちているのを発見した。


「……遥、あれ。消しゴム。あれ拾って、声かけたらいいんじゃない?」


私は彼方くんの足下を指差しながら遥に耳打ちした。

遥は頷き、そっと彼の後ろに回り込んで、消しゴムを拾って立ち上がった。


「……あの、これ」


遥が小さく声をあげる。

じっと見守っていた私には聞こえたけれど、友達との話に夢中になっている彼方くんには聞こえないようだった。


遥が恥ずかしそうに視線を逸らしてしまう。


私は思わず彼女に駆け寄り、励ますように背中をぽんっと叩いた。