あの日も同じように、私はこのフェンスの前に立っていた。

隣には、今日のように遥がいた。


彼女に誘われて一緒に来たはいいものの、運動部の練習風景に興味のなかった私は、何も考えずにただぼんやりと見ていた。

グラウンドの上に果てしなく広がる、澄んだ青空を。


そのとき突然、ただ真っ青だった私の視界に、彼が入ってきたのだ。


風に舞い上がる羽根のようにふわりと跳び上がった彼の姿が。

伸びやかな身体をしなやかにひねらせて、軽やかに、空を舞うように。


まるでそのまま羽ばたいて空へ飛んでいってしまいそうに見えた。


私は目を大きく見開き、息をのんだ。

心臓が一瞬とまったような気がした。


目も心も全て奪われて、私のものではなくなった。

スローモーションで空へと昇っていく彼の姿を無意識に目で追い、ゆっくりと地上へ戻ってくるまで見つめつづけた。


なんて綺麗なんだろう。

こんなに美しく空を飛ぶ人間がいたなんて。


なんて軽やかに、自由に、優雅に空を舞うんだろう。


何も言えずにただひたすら感動していた。


空から落ちてきた彼は、とんっとマットの上に着地し、すぐに立ち上がった。

今飛び越えたばかりのバーをくぐって、地面に転がっていた細長い棒を拾い、そのまま小走りで戻っていく。


彼は棒を持ったまま綺麗なフォームで助走し、それを地面に突き立てるようにして、大きくしなった棒の反動を最大限に使って、再び空を舞った。