遥の声を間近で聞いたのは、三年ぶりだった。


「遠子。こっち、来て」


遥はにっこり笑って、でもどこか泣きそうな表情で、私の手を優しく引いた。


私は吸い寄せられるように欄干から手を離し、俯いて橋の中央まで歩いた。

遥は何も言わずに私の手を両手でぎゅっと握り、それから私の手を引いて歩き出した。


激しい雨の中、私たちは相合い傘で歩いた。

遥は傘を私がいる左ほうに大きく傾けて、自分の右半身が濡れるのもかまわずにいた。


しばらく歩いてから、遥はくるりと私に顔を向けた。


「ねえ、遠子。私ね、やっとケータイ買ってもらえたんだ」


人生に絶望して死のうとしていた私に、その話題はあまりに唐突で、拍子抜けしたような気分になった。


「遠子も持ってるよね? 連絡先、教えて」

「あ、うん……」


まるで夢から覚めたような気持ちの中で、私は遥にアドレスを教えた。


「ありがとう。これからもよろしくね」


本当に嬉しそうな顔で遥は笑い、それから「さあ、帰ろう」と言って、私を家まで送ってくれた。


その日以来、遥は毎日、最低でも一回は私に電話やメールをくれるようになった。


あれから一度も、私は死のうと思ったことはない。