ある土砂降りの日の帰り道で、私は『もう駄目だ』と思った。

その日も、誰とも会話しなかった。

私は休み時間も昼休みも、教室の片隅で一人硬直していることしかしなかった。


こんな日々が永遠に続くと思ったら、もう生きていたくない、という衝動が込み上げてきた。

『命を粗末にしたらいけない』、『生きていたらいつか良いことがある』。

学校のメンタルヘルス講演で、どこかの大人がそんな話をしていたことを思い出した。

なんにもわかってないくせに、と私は恨みがましく思った。


そのとき、私を取り巻いていた状況は、苦しみは、いつかあるかもしれないというだけの『良いこと』のために耐えられるほど軽いものではなかった。

いつかの『良いこと』が訪れる前に、きっと自分の心は死んでしまう、と思った。


視界が煙るほどひどい雨の中、私は橋の手すりをつかんだ。

下を流れる川は、豪雨のために水位がかなり高くなっていて、流れも激しさを増していた。


これなら死ねる、と思った。


橋の欄干を乗り越えて、飛び降りてしまおう。

そう考えたとき、打ち付けていた雨がふいにやんで、そっと肩をつかまれた。


振り向くと、私に傘を差しかけて、自分はずぶ濡れになりながら微笑んでいる遥がいた。


「遠子」


土砂降りの雨の音にも消されることなく、遥の声は私の耳に入り込んできた。

優しい、優しい声だった。