だんだんと私は遥に対して持っていた親しみを見失いかけていた。


そして、決定的だったのは、女子の間で色つきのリップクリームが流行りだしたときのことだ。

私は遥に誘われて、近所のドラッグストアへ色つきリップを買いに行った。

わくわくしながら『どの色がいいかな』などと話し合い、私はピンクオレンジ、遥はベビーピンクのリップを買った。


そして次の日、私たちはそれを持って学校に行き、仲の良い子達と集まって、トイレの鏡の前で唇にリップを塗ってみた。


『わあ、可愛い!』


いっせいに声があがった。

もちろん、遥に向けられた歓声だ。


私より一足先に唇を彩った遥は、たったそれだけのことで、物語のお姫様みたいに華やかで可憐な姿になった。


みんなの視線が遥に集まり、彼女は恥ずかしそうに俯いていた。

少し離れたところで、私はくり出したリップをそのままもとに戻し、ポケットに突っ込んだ。


あの時に買ったピンクオレンジのリップクリームは今でも、一度も使われることがないまま、学習机の引き出しの奥にひっそりとしまわれている。


遥が主人公のお姫様だとしたら、私はたぶん、台詞もないようなお城の召し使いの一人か、村人Aだ。

そのことを知ってしまった。

だから私は、徐々に遥とは距離を置き、別の女子グループと仲良くするようになっていった。