「遥のことが大切だから」


深川先輩が怪訝そうな顔で「はるか? 誰?」と首を捻った。


「友達です。小学校から高校まで一緒で、今も同じクラスにいます」

「ふうん……で、それがあいつのこととどう関係するわけ」

「……遥の好きな人が、彼方くんなんです」


答えると、先輩が思いきり顔をしかめた。


「は? なんだそれ。あれか、友達と同じ人を好きになっちゃって、気まずいから言えない、とかいう女同士でよくあるやつか」


小馬鹿にしたように言われて、いくら先輩とはいえ、かちんときてしまう。

私はむっとして「一緒にしないでください」と返した。


「そういうのじゃないんです。気まずいとか、そういうことじゃなくて」


遥の優しくて可愛い笑顔が脳裏に浮かんだ。


「……遥は、私の恩人なんです。だから私は、あの子のことだけは絶対に裏切れない。傷つけられない。本当に、大切な人だから」


先輩は何も言わなかった。

ただ、私の隣に腰かけて、話を聞くような体勢になる。


突然、話したくなった。


今まで誰にも言ったことがないこと。

お父さんやお母さんにさえ言えなかったこと。


でも、深川先輩になら話してもいいかもしれない。

この人はきっと、興味本位で聞いたり、わざとらしく同情したりはしないだろうから。