「ほら、今も」


深川先輩が指差したのは、私が持っていたスケッチブックのページ。

慌てて視線を落とした先には、彼方くんがいた。


見ると、私の右手はいつの間にか鉛筆を握っている。

無意識のうちに彼のデッサンをしていたのだ。


一気に顔が熱くなる。


「いえ、あの………これは………」

「別に、俺に言い訳する必要ないだろ」


まごついていたら、先輩にぴしゃりと言葉を遮られた。


深川先輩は、美術室ではあまり話したことはないけれど、噂に聞くところによると、思ったことは何でも口にするタイプらしい。

相手の痛いところをずけずけと指摘するので、怖がられているという。


「毎日、毎日、あいつのこと描いては消して。一体、何やってんだよ。まどろっこしい。見てるこっちが苛々するんだよな」


先輩は呆れ返ったような口調で言った。

私は反射的に「ごめんなさい」と謝る。

すると彼は「そういうことじゃない」と顔をしかめた。


「謝るな。俺が言いたいのはそういうことじゃなくて、せっかく描いた絵を消すなんて勿体ないことはするなってことだよ」

「……はい」

「お前が描いてるのは、ただの落書きなんかじゃないだろ。描いてるとき、なんつうか、ものすごく本気だろ。見てて分かるよ。鬼気迫るっていうか。そんなに必死に描いてるのに消すなんて、絵の神様に怒られるぞ」