深川先輩はかなり変わっている。

ひどく無口だし無愛想だし、たまに言葉を発すると驚くほど口が悪いし、絵に没頭すると誰が話しかけても無反応になるので、なんだか怖い人という印象だった。

しかも脱色しきった白い髪をしていて、不良なのかもしれない。


だから、毎日のように部室で顔を合わせるけれど、あまり言葉を交わしたことはない。


それなのに、まさかいきなり話しかけられるなんて。

ぽかんとして見上げていると、先輩は私の手元のスケッチブックに目を落とした。

じっと凝視して、それから顔をあげてグラウンドに視線を投げる。


「あいつだろ。あの、棒で跳んでるやつ。あいつが好きなんだろ」


唐突すぎるし、内容も驚きだし、私は唖然として「なんで……」と呟くのが精いっぱいだった。


すると先輩は私に視線を戻し、小さく笑った。


「だってお前、いっつもあいつのこと見てんじゃん。しかも、よく絵に描いてるし。誰でも気づくよ」


まさか、と私は息をのんだ。

この美術部の部員たちはみんなひどくマイペースで、部室に来てもそれぞれ好き勝手に思い思いのことをしている。

だから、誰も私なんかのことは見ていないし、私が何を描いていようが関係ない、という感じだろうと思っていたのに。


まさか最も他人に興味のなさそうな深川先輩に、私が彼方くんの絵を描いていることを気づかれていたとは。