できればそろそろ文化祭用の作品に取りかかったほうがいいのだろうけれど、まだ何を描くか決められずにいた。


無難に静物画でもいいけれど、コンクール用の作品と違って文化祭の作品はある程度の自由度があって遊べるわけだから、

どうせなら自分が描きたいもの、描いていて楽しいものを描きたいと思う。


描きたいもの。

そんなの、一つしかない。


でも、それはだめだ。

描いてはいけない。


いちばん描きたいものは、いちばん描いたらいけないものだ。


そんなことを考えていたせいか、気がつくと私の目はいつものようにグラウンドに向いてしまっていた。


今日も彼方くんは黙々と練習している。

廊下や教室で友達と楽しそうに話しているときの姿とは、全然違った。


真剣な顔で、真摯な眼差しで、前だけを見つめて走り、そして空へと跳び上がる。


彼はきっと跳ぶために生まれてきたんだな、と何となく思った。

跳んでいるときの彼の顔が、最も彼の本性を表している気がする。


「そんなに好きなのかよ」


突然、すぐ後ろから声がして、椅子から飛び上がるほどに驚いた。

弾かれたように振り向くと、深川先輩が無表情にこちらを見下ろしている。


「……え……」


びっくりしすぎて上手く応えられない。