その背中をこっそりと見送る。


向き合って話すよりも、そのほうが落ち着いていられた。

私は彼の正面の顔より、横顔や後ろ姿のほうがずっと見慣れているから。


それなのに、さっきはあんなに近くで、正面から、彼と会話をして、笑顔まで向けられてしまったのだ。

まだ胸はばくばくと早鐘をうっている。


まさかこんな日が来るなんて、思ってもみなかった。

彼に助けられて、言葉を交わして、私だけに向けた笑顔を見るなんて。


どうしよう……嬉しい。

本当に泣きそうだった。


彼方くんの笑顔が、目に焼きついて離れない。


あんなに澄みきった笑顔は見たことがなかった。

彼はなんて綺麗な笑顔を浮かべるんだろう。

きっと心の美しさがそのまま現れているのだ。


彼方くん。

やっぱり、好きだ。

彼のことが好きだ。


話したこともなかったのに、どうしてこんなに惹かれるのか分からないけれど、

どうしても、好きだ。


あの笑顔を、私はきっと忘れない。

たった一度だけでも、彼が私に向けてくれた笑顔を、私のためだけに笑ってくれたことを、きっと一生忘れない。


何度でも思い出して、そのたびに満ち足りた気持ちになるだろう。