遠慮がちに私に集まっていた視線が、一気に私を通りすぎていった。

その先には、彼方くんがいる。


「ねえ先生、それで合ってますか?」


教室中の注目を集めていることに少しも躊躇せず、彼方くんは先生の答えを促す。

先生は「合ってる」と首を縦に振ってから、


「でも、先生は望月に訊いたんだよ。なんで羽鳥が答えるんだ」

「あっ、すみません。出しゃばっちゃった」


彼方くんが『しまった』という表情で言うと、どっと笑いが起こった。


それで教室の空気は一気に変わり、初めは私が当てられて、しかも答えられなくて授業を止めてしまったことなんて、もう誰も覚えていないようだった。


ほっとしてペンを握り直す。

と同時に、心臓が別の意味でばくばくと鳴り始めた。


――彼方くんが、私を助けてくれた。


それはすぐに分かった。

答えが分からなくて、どう対応すればいいかも分からなくて、頭が真っ白になってしまった私に助け船を出すように彼は発言した。


偶然なんかじゃないと思う。

私の勘違いや思い込みでもないはず。


彼は、授業中に指名されてもいないのに勝手に答えを言ってしまうような人じゃない。

彼はいつも、周りを見て冷静に判断してから言葉を口にしているから。

今日の言動は、いつもの彼とは違う。


それは、誰よりも彼方くんを見つめ続けてきた私には、はっきりと分かった。